日本の自動車各社は、10月30日に日本で新型電気自動車(EV)の発売を開始するホンダに続き、年度内に新型EV投入を相次ぎ予定している。国産のEVラインアップは一気に増えるが、従来型EVやハイブリッド車(HV)と異なり、短距離・コンパクト型が目立つ。各国で強化される二酸化炭素(CO2)排出規制対応でEV拡大を迫られる中、各社は従来と異なる新しい「使い方」を示す狙いだ。
日本メーカーの国内EVは現在、日産自動車「リーフ」と三菱自動車「i-MiEV(アイミーブ)」のみ。今冬にトヨタ自動車が2人乗りで軽自動車より小さな超小型EVを、マツダも年度内にスポーツ用多目的車(SUV)「MX-30」のEVを投入する計画だ。
その皮切りとなる「Honda e(ホンダイー)」の試乗では、満載の最新技術とコンパクトデザインに近未来感と親しみを同時に覚える一方、小型と思えない走行性能の高さを感じさせた。後輪駆動や四輪独立サスペンションなどスポーツカー並みの技術に、制御が速いEV特性を融合。急加速してもアクセルを緩めるだけでしっかり減速し、思い通りに操る楽しさがあった。
一方で、航続距離や価格は既存EVに劣る。米テスラ約500キロ、日産リーフ約450キロに対してホンダイーは最大283キロ。価格は日産リーフより100万円ほど高い。
しかし、開発責任者の一瀬智史氏は「ガソリン車の価値をEV化するだけでいいのかと常識を見直し、車というより都市生活を支える『ライフクリエイター』を作った」と語る。環境車といいつつ、実際の走行距離に不釣り合いな余剰電力を載せた大きな車が狭い路地を走る意味はあるのか-。そんな問題意識であえて性能を絞り、愛らしさも強調したという。
マツダMX-30のEVは航続距離約200キロで、ドアは観音開きという斬新なデザイン。トヨタ超小型EVはさらに短い約100キロで高齢者らの超短距離移動を狙うなど、従来の車とは違う特徴を出そうとしている。
国内各社が新型EVを相次ぎ投入する背景には、欧州で来年、罰金付きの環境規制が導入されるためだ。英調査会社「PAコンサルティング」が現地企業も含め全自動車メーカーの罰金を見込むほど厳しい基準だ。
ホンダは「国や地域の状況に応じた車を投入する」とし、中国では昨年、現地合弁企業で開発した航続約400キロの車種を別ブランドで発売。欧州では普及の土壌づくりでホンダイーを送配電網の蓄電池とする実験を行う。環境規制が一段と厳しくなる中、日本メーカーのEV戦略は地域ごとに多様化が進む見通しだ。
筆者:今村義丈(産経新聞)
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■自動車各社が国内向けの短距離・小型EVで狙う戦略
・ホンダ Honda e
航続距離最大283キロの小型車。最新機能と愛らしいデザインで「2030年の未来の車」を表現
・トヨタ 超小型EV
航続距離約100キロで軽自動車より小さな2人乗り。高齢者やビジネスユースの近距離移動を狙ってリースが主で、バッテリー網構築も図る
・マツダ MX-30
航続距離約200キロのSUV。ドアが観音開きの特徴的デザイン。ニーズに合わせてハイブリッド車も用意